夜行バスやフェリーの大部屋(雑魚寝用)、サウナの仮眠室など、多くの人が夜に一緒に寝る場所では、騒音(音楽やテレビの音、携帯会話、でんでん太鼓、そして「いびき」など)を出して他人に迷惑をかける行為を禁止することは当然であろうが、現代の社会では「いびき」に対してだけは誰も注意せず、いびきをかく人が利用を制限されることもない。結果として、いびきは事実上、かき放題の状態になっている。
深夜の夜行バスの中で、音量が同じであっても音楽をイヤホンなしで流すことや携帯で話すことは禁止されている一方、いびきをかくことは容認されている。周囲の人にとっては、音の発生源が何であるかは関係ない。音がうるさくて眠れず、迷惑なのである。
いびきをかく人は、他人と同じ空間で眠る以上、周囲に迷惑をかける可能性が高い。そのため、個室を利用する、別の移動手段を検討するなどの配慮が求められる。日本社会は「他人に迷惑をかけてはいけない」という価値観によって秩序が保たれ、生活のしやすさが成り立ってきたはずである。
タバコはようやく禁煙が進み、昭和から続いてきたセクハラやパワハラに対しても厳しくなってきた。それにもかかわらず、いびき問題と老化現象である薄毛を「ハゲ」と呼んで嘲笑する風潮だけは、改善される兆しすらなく、ほとんど放置されている。
このような矛盾は、人権や差別の本質について、実は多くの人によく理解されていないことに起因しているのではないだろうか。その結果として、社会全体の対応がちぐはぐで、筋の通らないものになっているのだと思われる。